– 江戸扇子 –  鳥塚隆男

さっぱりした「粋」な絵柄

日本舞踊、そのたおやかな舞に扇子がびしっと決まり一幅の絵を見るよう。
舞扇を作っている鳥塚隆男さんを、今回はお訪ねいたしました。
「京扇子は色がきらびやかで絵柄も細かいものが多いです。
江戸扇子は、さっぱりして地味ではありますが「粋」な感じがいたしますね」

昨年末、九十三才で亡くなった初代の徳治さんは、二十歳より蔵前で修業し、晩年まで制作を続け、扇子作りの名人といわれた方です。
その長男として生れ、高校時代より扇子作りを始める。

「家業を継がなくてはと始めたのですが、親父は手に取って教えてなんかくれませんでしたね。見よう見まねです。ただ、同業者に見せて恥ずかしくない物を作れとはよく言われました。」

ー商品として認められたのは、どの位作られてからですか
「さあどのくらいでしたか……。十年はかかりましたかね」

世界に誇れる日本の伝統文化

扇子の歴史は、笏が始まりで、平安初期に、ヒノキの薄片を綴り合せた檜扇ができました。
最初は涼を得るために用いられ、次いで儀式に使われたという。そして紙扇が作られ、仕舞・日本舞踊、日用品としての需要に支えられ現在に至っているのです。
この扇が平安末期に中国へ文化輸出され、更にヨーロッパに伝わり十七世紀にはフランスのパリを中心として扇が作られました。ルイ十四~五世の時代には、象牙、シンジュガイに羅、絹を張り、美術工芸の粋を尽くし作られたという。

扇子作りは折りが「要です」

扇子作りの工程は、紙の裁断、紙の重ね合せ、折り、内側の骨を入れる中差し、と中付け、外側の親骨づけ等であるが、その要は「折り」だそうです。
工種の内の「折」を見せて頂く。型紙を絵柄紙に当て、瞬く間に折り上げる。折り上げた紙は、ぴたっと一直線に揃い、見事な手捌きです。
更に、「中差し」を見せて頂く。折った紙を三日ほど落着かせ、上下を断ち切り、竹で出来た骨を入れる。 ふっと息を吹込み、折られた紙の中央に骨を入れる。
まるで吸込まれる様に骨が治まっていく。

ー今までで、「これは」と言う仕事、 あるいは、印象に残った仕事があったらお聞かせ下さい。
「昨年の秋、板橋区立第四小学校の五年生に、作業の工程のビデオを見せた後、お話を致しました。『始めは、こんなに難しい仕事は出来ないと思ったけど、自分もやって見たい』と言う意見が有り嬉しかったです」
奥の戸棚から大事そうに取りだして来られたのは、分厚い生徒の作文集のようでした。純真な子供達が、関心し、興味を示したのが嬉しかった。と言われる鳥塚さんも、誠実な方です。

ー機械化は無理ですか
「手作業で作るのと、あまり変わらないので無理なんですね」

江戸扇子を作る方は、今では七名とか。だが、鳥塚さんの息子さんも三代目として修業中とのこと。
江戸扇子は確実にひき継がれて参ります。

インタヴュー 関口雅美樹